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片頭痛新薬

片頭痛とCGRP

CGRP(CalcitoninGene-RelatedPeptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)というタンパク質は片頭痛の痛みを引き起こすと言われています。片頭痛の仕組みはまだはっきりしませんが、急に神経がCGRPという悪いものを出してそれが脳の膜に届くことで、片頭痛が起こるのではないかと言われています。
悪さをするのは、①CGRPを出す神経、②CGRP自体、③CGRPを受け取る膜です。これら3つが連携し合っているのです。
実際に片頭痛発作のない時にCGRPを注射した結果、頭痛が起こったという実験までされています。

3つの要素に立ち向かえる薬

3つの要素に立ち向かえる薬
上記の3要素のどれかを止めると、片頭痛が起こっても(どうして起こるのかはまだ分かりませんが)、全く痛みを感じなくなると考えられます。
2018年には(日本では2021年)、3つの原因に対処できる薬が全部できました。

神経からCGRPの放出を止める:各種トリプタン

  • トリプタン製剤は患者様のほとんどが使っているお薬です。

これは片頭痛が起こる時に三叉神経が出すCGRPというタンパク質を出させないお薬です。効果が高いお薬で片頭痛に効きましたが、CGRPが出る時にだけ効くという難点もありました。
飲むのが早すぎると、トリプタンがなくなってしまってCGRPが出てしまいます。飲むのが遅すぎると、CGRPはもう出てしまっているので薬の効果が得らえません。

CGRPそのものを無効にする:エムガルティ、アジョビ

エムガルティとアジョビは、CGRPという頭痛の元凶を無効にする薬です。この2種類の薬はCGRPが出てきたらすぐに捕まえて働かないようにします。1〜3か月に一度注射することにより体内でCGRPを常に監視し続けます。そのためCGRPがどれだけ出ても頭痛に苦しまなくなります。

CGRPを受け止めない:アイモビーグ

アイモビーグは、CGRPという頭痛の原因物質を受け止めないようにする薬です。原因物質が神経にくっつく場所を「受容体」と言いますが、アイモビーグには、CGRPの受容体をブロックする作用があります。受容体が塞がれるとCGRPの刺激を受けなくなります。この薬も、1か月に一度注射するだけで、CGRPの受容体を常に封じ続けます。

新薬の欠点はないのか

CGRPは本来悪いものなのか

はっきりとした答えはわかりません。人体に元々ある物質ですので、何か他に重要な機能があるのではないか、とも考えられます。それを完全に止めてしまっても問題ないのか、というのは正しい疑問です。
CGRPは、頭だけでなく、心臓や胃腸などにも影響を与えます。また、代謝や老化、傷の回復にも関係しているとされています。しかし、これらの薬でもってCGRPをブロックしても、頭以外にはほとんど悪い副作用がないことが分かっています。それは頭以外ではCGRP以外の因子も作用するので、CGRPだけを止めても補われるからだと考えられます。どのような薬でも副作用はありますが、この新薬は副作用が少ないと感じます。

効果が減ることはないのか

ご安心ください。心配する必要はありません。この種類のお薬「モノクローナル抗体」はお薬自体を攻撃する抗体や薬の効き目をなくす抗体を体が作ってしまうことがあります。薬を外敵として排除する抗体です。これを中和抗体と言いますが、新薬3剤ともに仮に中和抗体が出てきても効果が落ちないという結果が報告されています。また、中和抗体が出る確率も極めて低いと考えらえています。

服薬を止めるとリバウンドするのか

リバウンドすることは現在のところないようです。「CGRPを止めたら、CGRPの量が増えてしまうのではないか?」「CGRPの受容体を塞ぐと受容体が増えてしまうのではないか?」という疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
確かに他のお薬で起こる依存や中毒は、このような仕組みで起こります。しかし、海外での5年間のデータでは今回の新薬にはそういったトラブルが起こったという報告がされていません。

これらは片頭痛の予防薬です

片頭痛を防ぐのではなく発生した時の衝撃を最小化する薬です。特に痛みがとても弱くなるので、片頭痛が起きても気付かなくなったり、回数が減ったかのように感じたりします。
また、「片頭痛は分かるけど痛くない」という声もよく聞きます。片頭痛の発作回数や痛みを減らし、トリプタンの効果を向上させることができます。
これらは、ミグシス(ロメリジン)、インデラル(プロプラノロール)、デパケンR・セレニカR(バルプロ酸)、トピナ(トピラマート)、トリプタノールなどと同じように、片頭痛の「予防薬」です。ただし、注射であることと高額であるという点が違います。
また、最後の手段になる特別な薬でもありません。状況に応じて使ったり中断したりすることも可能です(ただし、正確に評価するために、3か月間続けるよう勧められています)。

保険適用とされますが、使用条件に満たしている必要があります

厚生労働省の最適使用推進ガイドラインに従うため、以下の全てをクリアする必要があります。

  • 医師が確認した月に何回も起こる片頭痛の発作(前兆の有無を問わず)。または医師が慢性片頭痛と診断している。
  • (頭痛ではなく)片頭痛が3か月以上続いて、1か月に平均4日以上起きている。
  • 今までの片頭痛予防薬を用いても効果が得られなかった、もしくは副作用で飲み続けられない。
  • 睡眠や食事などの生活習慣指導、適正体重の維持、ストレスのコントロールなどの薬物療法ではない治療法や、片頭痛発作が起きた時の急性期治療を行っているが、それでも日常生活に影響を及ぼしている。

年齢制限

  • 妊娠中や授乳中は、よく検討した上で処方を行います。
  • 18歳未満の子供には処方できません。

注意事項及びよくあるご質問

注意事項

注射した直後1時間以内にじんましんや呼吸困難、気分が悪くなった場合は、アナフィラキシーショックかもしれませんので、すぐに救急車を呼んでください(滅多に起こりません)。当日はお風呂に入っても問題ありません。ただし、注射した部位を強く揉むのは避けてください。
他の薬との相互作用はありませんし、他の飲み薬にも制限はありません。ワクチンなどの他の注射薬とも影響は及びません。ただし、副作用が出た時どちらの薬剤によるのかを特定するのが難しくなるので同日接種は避けることをお勧めします。

頭痛記録を続けましょう

厚生労働省のガイドラインに従うため、頭痛記録は止めずに書き続けてください。特に、「片頭痛で辛かった日数(他の頭痛を含めないでください)」は必ず記録してください。
痛みの度合いも記録すると、効果が分かりやすくなります。

中止する基準

3か月おきに効果を確認し、効果がないと判断しましたら中止します(片頭痛でない可能性が考えられるため)。血中濃度が十分になるまで判断するため、最低3カ月は治療を続けていただきます。また、効果が得られた場合でも片頭痛の予防薬ですので途中で服薬を止めても問題ありません。中止した後でもまた始めればすぐに効果が実感できるかと思います。

継続の方法

効果が実感できましたら、引き続き継続して構いません。

間隔の決め方

大体4週間か1か月おきに注射します。短すぎると保険適用の対象外となります。保険適用とされるためにも、注射日は月を変えてください(例:7月1日→8月1日はOK、7月1日→7月31日はNG)。1〜2週間ぐらい遅れても(5〜6週間の間隔)、効果には問題ありません。ただし、エムガルティは3カ月以上開いてしまうと、初期の量(2本)からやり直ししないといけません。アジョビは12週間に1回、3回まとめて注射する方法もできます。詳しくは医師へご相談ください。